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海月の恋
──或いは観念としての屍姦の考察──
月の光が像づくる影が、まるで檻のようにじっとりとその部屋を浸していた。
屍肉を漁る獣の無心さで女を貪った。
薄い皮膚から透ける胸骨が女の白い膚に規則正しい旋律を浮かび上がらせている。
その淫靡な譜を唇で堪能した。時折歯を立て、吸った。蒼白き園に、深紅の花が散る。
濃淡の微細なその花は己の唇の残像。女の瞳の色のようだと、思った。
ケイは自らの衣服を剥ぎ取り少女の首筋に指先を滑らせた。
そのまま指の欲望の赴くままに指を滑らせる。
女の躯というものは蕊(しべ)へ導く為にだけその複雑な曲線を形づくっているのだと、思う。
それは今まで抱いてきたどの女にも言える事であった。
だが今辿っている屍の肌を持つ少女は、少女と呼ぶには余りに豊かさに欠ける躯のラインを有していた。
男の直線的な欲望に応えられない、未熟な躯。
未熟な、二つの性。
さてどうしたものか。
思わず探る手を止める。
少女の瞳は閉じられたままで目醒める気配すらない。
漆黒の長い睫毛が微かに震えている。
月の光が女のか細い顔を淡く照らしている。
美しい、というよりも。
可愛いものだ、と思った。
思わず笑みが溢れる。
なんとも愛らしい屍体である。
温かさを未だ保有した、完成形に至らない、未熟な屍体。
まるでこの女が有する性のようである。
未熟な屍には完全な死を。
未熟な女には完全な男を。
それはとても良い考えのように思え、秘められた少女の器官に指を差し入れた。
チュ
ク
ッ
・
・
・
忍ばせ、遊ばせ、時に深く探り。
少女の蜜は水のように自然にケイの指に馴染みはしたが、やはり欲望の粘度に欠けていた。
性的でありながら性的でない女である。
だがこれでいい。
女の躯が整っておらずとも、それは関係ない。
女の躯を己の形に開くことの妨げには何らならない。
何故なら自分は「完全な」男なのだから。
そしてそれはその通りだったのだ。
思わず喜悦が漏れそうになる。
少女の隘路がケイを包み込む。
屍体だけが持ちうる優しさと温もりで。
それは完全な生と性を持つ女には決して生み出せない屍の領域の快楽であった。
欲望に忠実に従い魂の抜け殻を貪った。
死を侵蝕しているのか、それとも己が死に侵蝕されているのか。
生と死は対極に存在してこそその存在を保てるのかもしれない。
近づき過ぎたエロスとタナトスは互いを侵蝕し合い虚無へと至るのだろうか。
だとすれば、このままこの女と共に消え行くのも悪くない。
だが欲望の解放と共に夢は途切れ。
後には目醒めぬ愛しい少女の残骸が残される。
そして気付く。
自分はまだ、この少女の名前すら知らないのだと。
「──……」
胸に覚える、この感情の正体を直視し理解するには、ケイは余りにも死に近づき過ぎていた。