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月の女神の剥製

月の女神の剥製

〈STORY〉

この頃或る一つの考えが頭の中を占拠していてそれが脳裏から剥がれない
君をどうすれば完全に閉じ込める事が出来るのかその事ばかり考えている
本当は女のように子宮に閉じ込めてしまえればそれが一番いいと思うのだが俺は男なのでそれがどうしても叶わない
仕方がないので子宮の剥製を創る事にした

胎盤は月の花がいいだろう
羊水は俺の血液だ
臍帯は俺の腸で充分だろう

ところが肝心の君自身が余りにも俺以外の男を想って啼くので
君をどうすれば完全に閉じ込める事が出来るのかその事ばかり考えている
本当はその男のように君を慈しむ事が出来ればそれが一番いいと思うのだが俺は心が毀れているのでそれがどうしても叶わない
仕方がないので君の心の剥製を創る事にした

海を溶かした薔薇をしきつめよう
海の星々を夜空の黒髪に散りばめよう
海の血潮の一滴を君の唇に捧げよう

君の紅い瞳が俺だけを見つめている
君の小さな唇が俺の指を銜えている
君の空虚な心が俺だけで充ちてゆく

「ケイ」

と君が俺を呼ぶので俺も君の名を呼ぼうとしたのだが君の名を知らない事を唐突に憶い出しあの男に聞いておけば良かったなどと愚かな後悔を憶えつつ君に名を与えようと必死に考えるのだが眠くて堪らなくてそもそも先程から視界が紅く染まり腸が溢れやたらと躯が重いなどと思いながらそれにしても先程から地蟲のように床を這いずり廻っているのは何故なのかああそういえば四肢を切断したのだったか子宮の剥製を作る為に考えなしに切り過ぎたそれはそうと君の名の事だがやっと手に入れた君の名を呼びたくて堪らないのに声を出す事がそもそも出来ないのだと気付きああそうか俺はもうすぐ停止するのだとやっと理解ししかしどうしても君の名を呼びたかったので仕方がないので毀損しかけた記憶を掻き集めて君の名の剥製を最期に創る事にした

「レイラ」

月の女神の剥製がにっこり微笑んだ

「わたしの大きな大きな赤ちゃん」

ああ良かった
やっと孕めたのか
ようやく君の胎児になれた
俺を孕みし意志亡き躯
月の女神の剥製

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