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双卵少女

双卵少女

〈STORY〉

あたしは 男の人が 怖いです

骨張った指も
いかつい肩も

皮膚をざらりと撫でる 頬髭も

男の人の身体は どこもかしこも
尖っていて
あたしの肌は ぞわぞわするんです

おとうさんが あたしを殴ります
その直後に 必ずあたしを抱き締めます
これは 何かの 呪いの儀式なのでしょうか

「ごめんよ、ノア」

おとうさんは 何に対して 許しを乞うているのでしょうか
あたしが この痛みを 引き受ける事が
「許す」という事なのでしょうか

おとうさんの頬の髭が あたしの頬を
ざらりと 通り過ぎていきます
許さないと また 殴られるよね
だから あたしは 許す代わりに 謝ります

ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい

おとうさんの身体は 底知れない 大きな肉食獣の巣穴
ごめんよ、と許しを乞う口の奥 肉を抉る歯が ギラギラ 光ってる
囚われた草食動物
折られた脚 引きずり出された内臓には
きっと

ココロ

なんてものも混じっていたのかも

逃れられない

誰かあたしを助けて下さい

***

「ごめんね、ノア」

びくびく震えてる男女

「あんたの所為で、あたしすっごい苦しかったんだから!
おにいちゃん先生の事独占してさ!
ああいうのヌケガケっていうのよ!」

「ごめんね、ノア」

「あんたそれしか言えないの!?
あんた見てるとイライラする、いっつもびくびくしてさ、
あたしの方が何か悪い事したみたいじゃない!」

「ごめんね、ノア」

この男女は 何に対して 許しを乞うているのでしょうか
何だか とっても ムシャクシャ します
どんどんどんどん あたしの中の
ココロの肉食獣が 成長していきます

「……あんた、あたしの奴隷になりなさいよ」

「どれいって何」

「あたしだけのモノになりなさいって事よ、ほら、膝まづいてワンって言ってみなさい」

男女が地べたにしゃがみ込んだ

「ワンっ」

「……呆れた……あんた、プライドってものがないの? 何でも言いなりなわけ?」

「ワンっ」

「……ふうん、いいわ、あんたをあたしの犬にしてあげる。
あんた、これからあたしの犬奴隷になりなさい、いい?」

「はい、俺、ノアの奴隷になるの、ノアの奴隷……」

ノア、大好き
ごめんなさい
ノア、大好き
ごめんなさい
ノア、大好き
ごめんなさい
ノア、大好き
ごめんなさい

ペロペロペロペロ
犬が私の脚を舐め出した
触れる舌も擦る肌も
さらさらしていて 水みたい
あたしと、一緒
あたしの肌を脅かす 熱さが一切ない 涼しい肌

何でだろう あたしの 肉食獣が お腹いっぱいになった

急に 犬が 哀れで愛しくなった
犬を抱き締めた
犬も私を抱き締め返した

あ、犬って結構、背、高いんだ
……ふうん……

不思議な犬
不思議な奴隷

男の子でも女の子でもない
あたしだけの ココロの形に 寄り添ってくれる
あたしだけの 不思議な子

あたしだけの セイレン

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