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侵蝕恋愛 2015

侵蝕恋愛 2015

〈STORY〉

私たちには双つの角が備わっているので 誰とでも交わることができるのです
一つは外側に突き出た角なので 女を悦ばせるのに最適な象(かたち)をしているのです
もう一つは少しだけ厄介で 実にお恥ずかしい話なのですが
内側に穿たれた 空洞の形した角なので
男を受け入れるのに最適な象をしているのです
貴方が欲しいのはどちら?

私たちは誰とでも交わることができるのです
誰だっていいのです
誰だって
そう 誰だって
だって私たちを象(かたち)取るのはいつだって 貴方がた人間の側なのだから

そう 黒髪の私に溺れているあの男だってそうなのですよ
自分が象作った理想の少女であることに 気付きもしないで
いえ 聡明な彼のことであるから 本当は気付いているのかもしれないけれど
そうしたことも含めて 人間というものは とても愚かなものだと思えてならないのです
どうでもいいことなのですけれど どうかしら
貴方はどちら?

究極の恋愛って何かしら
貴方がた人間が恋愛と呼ぶ 何か特別 神聖視しているかのような
好意的に捉えて 精々 濃い人間関係としか 呼称出来ないないような
人間関係
いえ 皮肉ではないのですよ

時間・時機・巡り合わせ
それらの 気紛れが引き起こした 偶然の産物でしょう
そのいずれかが外れれば
容易に瓦解する 縁(えにし)であるにも関わらず

それを
運命
だなんて

それを
恋愛
だなんて

人間は人間自身を崇め称えるのが本当にお上手
私たちは感心しているのですよ
皮肉ではなく 心の底から
心喪き私たちには無い 特質ですもの
だって そうでもしないと
貴方がた人間は 命を繋げないのですものね

子孫とやらですか

まあ!
なんて儚く美しい生物なのでしょう
人間とやらは
いえ 皮肉ではないのですよ
永劫の命持つ私たちには無い 特質ですもの
羨ましいとすら思っているのですよ
いえ 本当に

いずれあの男も残すのでしょうね
自分にとても良く似た 淡色のドレスが良く似合う あの少女を

『君と同じ時間を生きる』

だなんて言葉を吐きながら
若い身体は正直ね
それとも心が正直なのかしら
私が誰でもいいように
あの男も誰でも良かったというだけのこと
それが証明されたというだけのこと

その瞬間 私は全てのヒトの勝者となり
本当の私へと還ることが叶う

だから 悲しいことなんて何もないのですよ
何も 何も ないのです
いえ 本当に

そんな熱に浮かされたような愚かな言葉を
私が信じていたとでもお思い?

私には視えていたのです
赤児を抱きかかえた あの男の姿が
それもあの男が象取った『わたし』と同じ性を持つ
娘を

困ったように
戸惑ったように
それでも刹那

微笑みかけた
あの男の姿が

双つの角持つ
永遠の命持つ私たちを

……わたしを

置き去りにして

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