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両性具有の娼婦の手記〈3〉

両性具有の娼婦の手記〈3〉

「お前さあ、いつもそんな小難しいこと考えてエッチしてんの? 重い」


「お前さ、自分作ってんだろ」
「……何が」
「だからさあ、自分は少し危険な女でイっちゃってますーって
そういうことで自分自身を無駄に保ってんだろ?
何それ自己アピール?」
「……何とでも」
「はっきり言ってやろうか。お前さあ、イク寸前の時、いつも叫ぶよな。
このまま殺してって。
ああいうのうざいキモい気持ち悪い
はっきりいって萎える。
ああいうの俺趣味じゃないから。
大体お前痩せ過ぎだし、肋とか浮いててまじ勘弁して欲しい」



頭の悪い男は嫌いだ
低俗な言葉で繰り返される男の戯れ言がわたしの神経を焼き殺す
気にすることはない
なのに何故
わたしの左腕にもう何百本目かも把握できぬ血の友人が迎えられた
コンニチハ

プクリと丸い水滴の可愛い可愛いお友達
こんにちは
わたしは笑った
ほら、わたしは大丈夫
死ぬつもりは更々ない
そんな力すらなかった



「え……っ、なんて……」
「だからさ、俺とセックスしよう。あんたならよく知っているし、前から少し気になっていたから」
わたしは孤児院で育った
そしてわたしは今、同じ孤児院で育った同年代の少年にセックスを求めていた
「なんで……僕……なの」
孤児院の少年が消え入りそうな声でつぶやいた
少し前までは自分とさほど身長が変わらなかったのに、その少年は青年へと確実に成長していた
淡い男の匂いが、わたしを同じく淡い女へと変容させる
ー紅い髪の男の匂いたつような「男」の匂いは、わたしをこれ以上ないくらい「女」にさせるけれど
「……やっぱり、わたしじゃ、駄目……? あなたにとっては、わたしは男の子にしか、見えないの?」
「そんなんじゃないけど……でも、僕たち、孤児院の仲間だし、そういうのは、駄目だよ……」
「俺はあんた自身の気持ちを聞いている。答えて。
わたしとセックスしたい? したくない? これで最後。答えて」
「……」
少年は沈黙とともに、その少年期特有の細い首を項垂れた

──どうやら、成功したようだ

わたしは唖然とした
その少年の淡い躯に
それは、わたしが〈ラ・ルーナ〉の街で出逢ったどの男とも違うラインを有する躯だった
それは、優しい、とでも表現すればいいのだろうか
雄の匂いがまるでしない躯だった
余りになだらかすぎるその躯は、まさしく幼児のそれで、わたしは混乱した
衣服の上からでは全く分からなかったその少年の幼い躯は、わたしを
「破壊」
するには余りにも頼りないように思え、急激に不安に襲われた
「……初めて?」
わたしは聞いた
「うん……」
少年は予想通りの答えを返してきた

嫌な予感がした

「……大丈夫。わたしが、気持ちよくしてあげる」
わたしはその少年を導くために、少年の淡い欲望を
──口に、含んだ

少年は微動だにしなかった
只ただその身を女のわたしに任せているばかりであった
「……どう?」
「……わ、わかんない、よく……」
「緊張してるんだね」
わたしはありとあらゆる手段を使って少年を慰めたが
少年は定位置であるかのように寝台に横たわったままで
まるで「雄」へと切り替わる気配がなかった
──大概の男は、例え初めてでもこの時点で堕ちるのだが
わたしはだんだんこの少年に苛立ちを覚えてきた
衣服を脱ぎ捨てた少年は只の臆病な幼児に過ぎなかった

それは
「幼児性がある」
という素晴らしい性質とは一線を画す厄介な
「性格」
であった

わたしのその苛立ちは、そのまま少年へと向けられることになった
わたしは愛撫を停止させ、無理に少年を自分の女の躯へ招き入れた
その瞬間、少年は瞼をギュ……ッと閉じた
わたしは少年の上で躯を上下させ少年を観察した
少年の欲動が目醒めてくれる事を祈るような思いで必死に願いながら、少年を犯し続けた

だが、そのうち、少年は──

──泣き出して、しまった

ポロポロと、静かに、涙を流し始めた
わたしは動きを止め、少年と器官を繋ぎ合わせたまましばしその少年の涙を凝視し続けた

──なぜ泣く

数日前に私を罵倒した男の言葉が蘇る
ああいうのうざいキモい気持ち悪い。はっきりいって萎える
わたしは自嘲した



ダレモ、ワタシヲ、コワシテクレナイ

ここ数日、わたしを
「壊して」
くれる男にずっと出逢えないでいたので、わたしはどうしようもなく不安定になっていた
予兆は、既に始まっていたのかもしれない
あの紅い髪の男は、そんなわたしの切なる願いを、誰よりも、何よりも
──本能で、嗅ぎ取っていてくれたのだろう

──君に、今度プレゼントを持ってくるよ。君の女性としての魅力を最大限に引き出すような、そんなプレゼントを

それは、少し先の、祝福された希望の言葉

「ごめんね、ごめん……」
孤児院の少年が、尚も泣きながらわたしに謝ってきた

泣かないでね
大丈夫
あなたを、わたしの世界に引きずり込んで、ごめんなさい
さようなら
明るく綺麗な世界を、素直に信じられるその心を
知らなくてもいいことは、知らなくてもいいんだよ

わたしはその少年の髪を撫でた
少年が涙でぐしゃぐしゃに濡れた顔でわたしを見つめた
「◯◯◯◯、君、なんだか、……」
少年が、わたしの忌み嫌うわたしの名を呼び
そして──言った



       
       
                   カ 

  
    
     サ 
ン 
   ミ 


 
      イ

その瞬間
紅い髪の男の、餓えた獣のような鋭い眼差しが脳裏にフラッシュバックした
「◯◯◯◯……、◯◯◯◯?」
わたしの、名を、呼ぶなと、いうのに
だが、急速に闇に呑み込まれる意識が、少年へ忠告の言葉を発することを許さなかった
「◯◯◯◯!」
わたしは、意識を失った

それは、恋愛。
ヘビーシロップ漬けの猛毒の果実。

恋愛が、始まろうと、していた

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