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両性具有の娼婦の手記〈1〉

両性具有の娼婦の手記〈1〉

わたしは三千ルクで躯を売ったことがある。

ルク=〈ラ・ルーナの貨幣。一円=一ルク〉



臓物



別に三万ルクでも三千ルクでも良かったのだが、男の持ち合わせが三千ルクしかないというので
わたしは自分のセックスを三千ルクで提供した

男の拙い恣意にひとしきりつきあった後
「君は痩せすぎているね」
と紫煙と共に吐き出された
金のない男程しつこく手に負えないものはない

ある日五万ルクでわたしを買った男がいた
その男は紳士的で社会的地位の高い男であった
しかしその男は幼児性の抜けきらぬ男で
狂ったように寝床の中で
「抱き締めて抱き締めて抱き締めて抱き締めて抱き締めて抱き締めて抱き締めて抱き締めて抱き締めて抱き締め」
と壊れた蓄音機のように繰り返す男であった
金のある男は異常性癖であることが多い



ある日
それは突然訪れた
世界が、変わった



わたしはその男の肉体が欲しくて欲しくてたまらなかった
その男の肉体に引きずられるようにその男の躯の匂いを追って
〈ラ・ルーナ〉の街を何日も何日も徘徊した

その合間に男と女
両方と躯を合わせた
「こんなことを繰り返していると子どもが生めなくなるよ」
親切な男の一人が言った
もう遅い
わたしはとうに子どもの生めぬ躯になっていた
自らの体質の所為なのか
奔放に躯を求めたが故の結果であったのか
それはどうでも良かったのだが
わたしの躯は
生殖とは無縁のものになっていた



わたしの肉の空虚に
彼の臓物を



見知らぬ男の躯の重みが
浮き出た背骨に
痛い

〈ラ・ルーナ〉のオープンカフェで
探し求めていた





見つけた

紅い髪の男の躯からは
いつも女の
匂いが
した
本物の


特に
男の優美な爪先には
幾人もの
女が
棲みついているようであった

わたしは気付かぬ振りをして
男と男の全てを共有したくて
飲めもせぬ苦い飲み物を注文した
しかし
やはりどうしても受け付けられなくて
それが少し
いや
とても
寂しかった

せめて

男の欲望の臓物を
この
未熟な性で
呑み込むことだけは
出来ればいいと
儚い夢を
抱いた

わたしは
その男の躯が欲しくて欲しくて
気が狂いそうであった

その男は
わたしが女であると
一片の疑いもなく
思っているようであった

幸福

それは
甘美な幸福であった
彼の官能的な肉体が
わたしを変えていく
彼の男の躯が
わたしの女を

侵蝕

してくれる日を
恋い焦がれる
わたしは

彼の



に恋をした

それは、恋愛だった。

ところで

わたし

とは











一体誰のことなのであろうか

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