top of page
untitled

untitled

〈STORY〉

「なぜ貴女様が今こうして私に見咎められておられるのか、おわかりですね、お嬢様」

「ええわかっているわ、わたくしがお外に出たから」

「そう、私の許可なく勝手にお一人で〈ラ・ルーナ〉の街へ出られた」

「……だってお前はとても忙しそうだったのだもの。わたくしが声ををかけたところで相手にされないのは火を見るよりも明らかだったわ」

「……昼間はお控えくださいと申し上げていたはずです。夜になればこうして、ゆっくりお相手をして差し上げますから……」

「お父様は勝手にふらふらお一人で外出なさっていたというのに! どうしてわたくしだけ! 『朝帰り』っていうのよ!」

「……そのような下世話なお言葉をどこで覚えていらっしゃったのですか貴女様は」

「イネスよ。イネスがいっていたのよ。それよりもクロアード! 港でとても素敵な男の子を見かけたの!」

「港? そんな所までお出になられていたのですか貴女様は」

「黒髪のとっても素敵な男の子よ! 肌が白くてすらりとしていて、それでいて男性特有の獣臭さを感じないの!」

「黒髪の……、いえ、もっといけませんね、お嬢様」

「何がいけないというの?」

「貴女様が男性と接触されることが、です」

「お前とはこうしているのに?」

「私は別なのですよ」

「……お父様にとっても?」

「──何と?」

「お父様にとってもお前は特別だったの? お父様も外出やお勉強や人付き合いやその他のもっといろんなことすべて……、すべて、すべて、お前の許可が必要だったの?」

「お父様にはそんなことは致しませんよ」

「なぜ? どうして? わたくしだけ?」

「さあ……、どうしてでしょうね。いろいろな事由が挙げられますが、敢えて申し上げるなら
『それが可能ではなかったから』
でしょうか」

「それはわたくしとは可能、ということなの?」

「……そうですね。今はまだ、時期じゃないようですが……」

「うふふ、くすぐったい、クロアード」

「くすぐったいだけですか?」

「……そうよ? なあに? どうして笑っているの?」

「そのようなところがまだ『時期』じゃないと申し上げているのですよ」

「ふぅん……、そう……、十八歳のお誕生日を迎える日にすべて教えてくれるって約束だものね、クロアード。……お前はわたくしのお父様にも等しい存在だもの、お前がいなかったら、わたくしは、この家は……」

「珍しく神妙な顔をしていらっしゃる。けれどお嘆きになる必要はないのですよ。お父様は貴女様の中にいらっしゃるのです。この髪も、この瞳の色も、容貌も……、貴女様はあの方の幼い頃のお姿にとてもよく似ておられる。あの方が貴女様の中にいらっしゃるという証拠なのです。あの方が……」

「……お前がいう『中』というのは、どちらのことを言っているの? 心? それとも今……」

「……ああ、失礼致しました。ご気性はあまり似ておられませんから、身体の中、ということになるでしょうか」

「身体の中……」

「ええ」

「お父様が身体の中に……」

「『それが可能ではなかった』のですよ。けれど貴女様は女性でいらっしゃるから」

「……クロアード?」

「それが『可能』だということなのです」

 鳥の羽音がばさばさと聴こえてきて、そうしてわたくしは包まれるのです。
 黒い大きな鳥の漆黒の腕(かいな)に。

bottom of page